平成24年1月15日(日)国立文楽劇場(大阪)にて文楽「七福神宝の入舩」、「菅原伝授手習鑑」、及び「卅三間堂棟由来」を観劇する。
七福神宝の入舩(しちふくじんたからのいりふね)
菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
茶筅酒の段
喧嘩の段
訴訟の段
桜丸切腹の段
卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)
平太郎住家より木遣り音頭の段
「七福神宝の入舩」は、お正月らしい出しもの。華やかな宝船に載った七福神の所作がなんとも言えぬ程に楽しい。
「菅原伝授手習鑑」は、(白太夫)「吉田和生」そして(桜丸)「吉田簑助」(人間国宝)の人形遣いの演技を観ることができた。また「桜丸切腹の段」では、「竹本住太夫」(人間国宝)による素晴らしい浄瑠璃語りと「野澤錦糸」による三味線も堪能した。
この段における「桜丸」の所作は、その「桜丸」の心境(心理状態)を考えると、かなり繊細なものになるが、その所作を見事に表現している「吉田簑助」の人形の遣い方は、流石である。あまりにも微妙な所作ゆえに、「桜丸」が切腹に至るまでの場面を、息を潜めて見てしまった。また、「桜丸」の父親「白太夫」を遣う「吉田和生」の所作も流石である。息子を切腹させざるを得ない、父親の悲痛な心理状況を見事に表現している。また、「桜丸」の妻「八重」を遣った「吉田寛弥」もなかなか見応えがあった。「八重」も切腹した夫「桜丸」の後を追って自害しようとしたが、その時の妻としての悲哀の様子が上手に表現されていた。
上述したように、「人形」も卓越した遣い手によるものであるが、この段の圧巻は、「竹本住太夫」と「野澤錦糸」の三味とによってもたらされる「浄瑠璃語り」である。「切腹」せざるを得なくなった「桜丸」の心理状況、悲しみに耽る妻「八重」、そして切腹を見定める父親「白太夫」を見事に語り、表現している。
今回上演された「四段目」の部分だけからでは、なぜ、「桜丸」が「切腹」しなければならなかったのか?残念ながら理解できなかった。
そこで、切腹の原因を簡単に纏めると以下の通りである:
『自分の仕える斎世親王(ときよしんのう)と菅丞相(かんしょうじょう)の娘「苅屋姫」(かりやひめ)とは相思相愛の仲。しかし人目をはばかり逢瀬もままなりません。そこで「桜丸」と妻「八重」は2人の密会をとり計らうことに。ところがそのことがもとで、菅丞相は九州・大宰府へ左遷、主家没落の危機を迎えます。自分の配慮のなさが原因だと、「桜丸」は死んでお詫びする決意をかためます。父「白太夫」(しらたゆう)の賀の祝いを待って、「桜丸」は、父の前で命を絶ちます。親子の縁より重んじられた「主従の関係」をあたかも象徴するように、義を果たしたのである。』
「卅三間堂棟由来」では、「お柳」を遣った吉田文雀(人間国宝)の巧みな人形遣いを見ることができた。そして、鶴沢寛治(人間国宝)が奏でる三味線の音色は、実に感動的な旋律だ。有吉佐和子の小説『一の糸』を思い起こさせる。