2009年7月9日木曜日

ノーベル物理学賞授賞記念講演

「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」

 2009年3月11日(水)東京・有楽町にある「朝日ホール」(マリオン11階)にて午後6時~8時半にわたって開催された、朝日新聞社主催の「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」に出席した。朝日新聞(朝刊)の案内を見て申し込み、見事に当選したからである。幸いにも前から4番目の列の座席に座ることができたので小林誠・益川敏英の両先生をはじめ、各講演者の顔や姿を間近に見ることもできた。この講演会への参加者は、約750名と翌日の朝刊に発表されていた。

 講演に先立ち、「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」のビデオが上映された。縮小版なので、部分的にカットされていたが、そのカットされた部分も含めてもう一度じっくりと見てみたいと思うような内容であった。

 また、今回の講演では、高エネルギー加速器研究機構理事の高崎史彦先生の講演も聴くことができたのは、予想外の喜びであった。今回のノーベル物理学賞は、理論物理学者が受賞したが、多くの人々に実験物理学の重要性を改めて認識してもらいたいものである。

「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」
東京・有楽町「朝日ホール」
2009年3月11日(水)
(前半)記念講演
1.「6元クォーク模型誕生のころ」
 小林誠 高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授
2.「科学とロマン」
 益川敏英 京都産業大教授
《休憩》
(後半)
3.「KEK」における小林・益川理論の検証
 高崎史彦 高エネルギー加速器研究機構理事
4.パネルディスカッション
「宇宙と人間」
小林誠、益川敏英、高崎史彦、清水義範 小説家、高橋真理子 司会

小林・益川の両氏の講演内容は、いろいろな雑誌や講演で何回も採り上げられているものが中心になっているが、やはりそれぞれに特徴があって何度聴いても面白い。

小林誠先生の講演は、前回聴いているので、重複するかなぁと思っていたが、やはり「小林・益川理論」の概説であった。今回は、小林誠先生のいろいろな人間的な側面をお聴きしたかったので、ちょっと残念である。

益川敏英先生の講演は、ところどころにユーモアを交えて、大変に面白く聴くことができた。講演の表題は、例えば、京都産業大学の雑誌に掲載されているようなものであったが、実際に話された内容は、益川敏英先生のいろいろな人間的な側面と、理論物理学者としての側面とが随所に現われたものであった。また、その内容の一つとして、南部陽一郎先生の研究を尊敬していることが大いに感じられた。「素粒子の世界大会(東京で開催)」の名誉あるSummary Speech(閉会のときの挨拶)で南部陽一郎先生が、「CP対称性の破れ」に関する「小林・益川理論」を述べられたことがかなり印象に残っている様子であった。

以下に、益川敏英先生の講演内容の一部を箇条書きにする:
(1)当時の世界の理論物理学の潮流から見ると、坂田グループ(名古屋大学の素粒子研究室の理論物理)は、「一周遅れの先頭を走っていた」。そして、大学院では、講師が「場の理論」を研究していて、我々にそれを詳細に教えてくれていた。
(2)「CP対称性の破れ」の問題は、研究テーマを捜しているときに、偶然に見つけたもので、最初はあまり興味がなかった。
(3)小林・益川理論を考えていたときの思考プロセス、即ち構築した4つのクォークのモデルでは「CP対称性の破れ」がうまく証明できなかったので、6つのクォークのモデルを考えつくようになった思考プロセスを、一般向けに大雑把に話されたが、もっと具体的な物理的思考プロセスを聴いてみたいと思ったので、ちょっと残念である。4つのクォーク・モデルを構築して「CP対称性の破れ」を証明しようとしたときにかなり計算に苦労したので、6つのクォークのモデルを用いたときには、あまり計算に苦労しなかったと話された。
(4)京都大学時代は、京都大学職員組合の書記長として活躍していたので、早朝に、「理論的な研究」をしてから(注:たぶん、前夜に行っていた「理論的な研究」を続行したと思われる)、日中は、その「仕事」が多く、それが一段落してから、「研究室」に戻って、夜中の1時頃まで、毎日「理論的な研究」を行ってから帰宅したという。
(5)チャレンジしたくなる問題を見つけたときが最も“楽しく”、その問題を解決してしまったときが最も“つまらない”と言われて会場が大いに沸いた。また、一つの問題を解決してしまったら、その問題をよく詳細に論証したり、突き詰めたりするのではなく、また新たな別の問題にチャレンジすることが好きである旨を述べられた。
(6)最先端の研究の一つとして「超対称性理論」に興味を持っている。
(7)有名な理論物理学者W. Pauliの話の後に言われたことであるが、人間は、人間として優れた人格の育むべきであり、他人(の研究)を批難し、かつ自分(の研究)が世界の中心であり、自分以外の人間(の研究)は、存在することに値しないというようなことを公然と言い切るような、傲慢な(研究)者がもっとも嫌いなタイプの人間である。

この講演を聴いた後、「好きなものはとことん好き」、「嫌いなものは絶対に嫌い」であると、ものごとをハッキリ言える、人間味溢れる益川先生に大いなる魅力を感じた。

ちょうど講演当日の朝から通勤電車の中で、難解であると思っていた益川敏英・著の『いま、もう一つの素粒子論入門』(パリティブックス・丸善・1998年)を読んでいるが、これがなかなか面白いと思うようになってきた。

なお、今回の益川敏英先生による講演でも述べられていた「CP対称性の破れ」の研究に関する経緯については、ノーベル財団ウェブサイトの「Nobel Lecture」に詳細に記載されているので参照されたい。大変に興味を覚える研究の経緯である。

0 件のコメント: