2009年7月17日金曜日

科学技術週間@つくば

KEK-Belle Detector site

 平成21年度(第50回)「科学技術週間」の一環として開催された「つくばの研究機関」の特別公開に出かけてきた。

 目的は、2008年のノーベル物理学賞を受賞した益川・小林理論を実験的に検証した「KEK」(高エネルギー加速器研究機構)の実験施設の一つである「Belle」測定装置を見学することである。

 「KEK」の「コミュニケーションプラザ」には、小林誠教授が受賞された「ノーベル物理学賞」の「メダル」(大きさ:直径66mm・重さ:200g)のレプリカ、「賞状」、そして、御二人のサインが書かれている「益川・小林の論文」が一緒に展示されていた。

 ちょうど実験中だったので、残念ながら「Belle」測定装置の中枢部分を直接見ることはできなかったが、「Belle」測定装置の概観を直接見ることができたので感激した。

 また、今回の一般公開ツアーでは、特別に「Belle」の「コントロールルーム」にも立ち入ることができ、ちょうど「コントロールルーム」の「ディスプレー」にはリアルタイムで対生成されている「素粒子の軌跡」が瞬時に映し出されてくるので感動的であった。

 「素粒子の軌跡」は、私が米国の大学及び大学院に留学しているときに実験していた加速器を利用した重イオン-原子衝突により生成されるX線のスペクトル(累積形)とは全く異なる映像であるが、実験室そのものの雰囲気は、研究員または大学院生と思われる女子二人が「Belle」のベビーシッターを行っていたので、「TUNL(Triangle Universities Nuclear Laboratory)」の「実験室」と同じようなものであった。

 「KEK」のもう一つの施設「Photon Factory(PF)」(フォトンファクトリ)のいくつかのビーム端の実験施設を階上から眺めることができた。実験施設の数から様々な研究が行われていることが一目瞭然である。しかし、こちらは、「TUNL」のビーム端の施設の雰囲気とあまり違いがなく、大変に懐かしい光景であった。
 米国留学時代に過ごした「加速器を利用した物理実験」の世界にしばしば郷愁を感じた一日であった。

2009年7月9日木曜日

ノーベル物理学賞授賞記念講演

「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」

 2009年3月11日(水)東京・有楽町にある「朝日ホール」(マリオン11階)にて午後6時~8時半にわたって開催された、朝日新聞社主催の「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」に出席した。朝日新聞(朝刊)の案内を見て申し込み、見事に当選したからである。幸いにも前から4番目の列の座席に座ることができたので小林誠・益川敏英の両先生をはじめ、各講演者の顔や姿を間近に見ることもできた。この講演会への参加者は、約750名と翌日の朝刊に発表されていた。

 講演に先立ち、「高エネルギー加速器研究機構(KEK)」のビデオが上映された。縮小版なので、部分的にカットされていたが、そのカットされた部分も含めてもう一度じっくりと見てみたいと思うような内容であった。

 また、今回の講演では、高エネルギー加速器研究機構理事の高崎史彦先生の講演も聴くことができたのは、予想外の喜びであった。今回のノーベル物理学賞は、理論物理学者が受賞したが、多くの人々に実験物理学の重要性を改めて認識してもらいたいものである。

「ノーベル物理学賞受賞記念 小林誠・益川敏英講演会」
東京・有楽町「朝日ホール」
2009年3月11日(水)
(前半)記念講演
1.「6元クォーク模型誕生のころ」
 小林誠 高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授
2.「科学とロマン」
 益川敏英 京都産業大教授
《休憩》
(後半)
3.「KEK」における小林・益川理論の検証
 高崎史彦 高エネルギー加速器研究機構理事
4.パネルディスカッション
「宇宙と人間」
小林誠、益川敏英、高崎史彦、清水義範 小説家、高橋真理子 司会

小林・益川の両氏の講演内容は、いろいろな雑誌や講演で何回も採り上げられているものが中心になっているが、やはりそれぞれに特徴があって何度聴いても面白い。

小林誠先生の講演は、前回聴いているので、重複するかなぁと思っていたが、やはり「小林・益川理論」の概説であった。今回は、小林誠先生のいろいろな人間的な側面をお聴きしたかったので、ちょっと残念である。

益川敏英先生の講演は、ところどころにユーモアを交えて、大変に面白く聴くことができた。講演の表題は、例えば、京都産業大学の雑誌に掲載されているようなものであったが、実際に話された内容は、益川敏英先生のいろいろな人間的な側面と、理論物理学者としての側面とが随所に現われたものであった。また、その内容の一つとして、南部陽一郎先生の研究を尊敬していることが大いに感じられた。「素粒子の世界大会(東京で開催)」の名誉あるSummary Speech(閉会のときの挨拶)で南部陽一郎先生が、「CP対称性の破れ」に関する「小林・益川理論」を述べられたことがかなり印象に残っている様子であった。

以下に、益川敏英先生の講演内容の一部を箇条書きにする:
(1)当時の世界の理論物理学の潮流から見ると、坂田グループ(名古屋大学の素粒子研究室の理論物理)は、「一周遅れの先頭を走っていた」。そして、大学院では、講師が「場の理論」を研究していて、我々にそれを詳細に教えてくれていた。
(2)「CP対称性の破れ」の問題は、研究テーマを捜しているときに、偶然に見つけたもので、最初はあまり興味がなかった。
(3)小林・益川理論を考えていたときの思考プロセス、即ち構築した4つのクォークのモデルでは「CP対称性の破れ」がうまく証明できなかったので、6つのクォークのモデルを考えつくようになった思考プロセスを、一般向けに大雑把に話されたが、もっと具体的な物理的思考プロセスを聴いてみたいと思ったので、ちょっと残念である。4つのクォーク・モデルを構築して「CP対称性の破れ」を証明しようとしたときにかなり計算に苦労したので、6つのクォークのモデルを用いたときには、あまり計算に苦労しなかったと話された。
(4)京都大学時代は、京都大学職員組合の書記長として活躍していたので、早朝に、「理論的な研究」をしてから(注:たぶん、前夜に行っていた「理論的な研究」を続行したと思われる)、日中は、その「仕事」が多く、それが一段落してから、「研究室」に戻って、夜中の1時頃まで、毎日「理論的な研究」を行ってから帰宅したという。
(5)チャレンジしたくなる問題を見つけたときが最も“楽しく”、その問題を解決してしまったときが最も“つまらない”と言われて会場が大いに沸いた。また、一つの問題を解決してしまったら、その問題をよく詳細に論証したり、突き詰めたりするのではなく、また新たな別の問題にチャレンジすることが好きである旨を述べられた。
(6)最先端の研究の一つとして「超対称性理論」に興味を持っている。
(7)有名な理論物理学者W. Pauliの話の後に言われたことであるが、人間は、人間として優れた人格の育むべきであり、他人(の研究)を批難し、かつ自分(の研究)が世界の中心であり、自分以外の人間(の研究)は、存在することに値しないというようなことを公然と言い切るような、傲慢な(研究)者がもっとも嫌いなタイプの人間である。

この講演を聴いた後、「好きなものはとことん好き」、「嫌いなものは絶対に嫌い」であると、ものごとをハッキリ言える、人間味溢れる益川先生に大いなる魅力を感じた。

ちょうど講演当日の朝から通勤電車の中で、難解であると思っていた益川敏英・著の『いま、もう一つの素粒子論入門』(パリティブックス・丸善・1998年)を読んでいるが、これがなかなか面白いと思うようになってきた。

なお、今回の益川敏英先生による講演でも述べられていた「CP対称性の破れ」の研究に関する経緯については、ノーベル財団ウェブサイトの「Nobel Lecture」に詳細に記載されているので参照されたい。大変に興味を覚える研究の経緯である。

韓国伝統音楽


 私が韓国伝統音楽に本格的に興味を持つ切っ掛けとなったのは、2008年7月3日~12日の間に行われた韓国文化院が開催する韓国伝統音楽講座短期コース(全4回)で、「韓国国立国楽院」で「伽倻琴」(カヤグム)の「副首席奏者」を務める「李侑娜」(リ・ユナ)さんから「伽倻琴」を習ったことにある。

 2009年6月19日(金)に新宿・四谷に移転した「韓国文化院」で「韓国文化院開院30周年・新庁舎移転記念公演」を観てきた。

 公演は、「サムルノリ」を演奏するグループ四物広大(サムルグァンデ)による力強い熱気溢れる「キルノリ」という曲の演奏から始まった。その演奏は、力強さだけでなくそのハーモニーもまた素晴らしいものであった。私が興味を覚えている「チャング」をあのように演奏することもできるのかと驚かされた。
 「サムルノリ」は「四物の遊び」という意味で、地方ごとに異なる農楽の中でも必ず用いられる4つの楽器(ケンガリ、チン、チャング、プク)で演奏する。チン(鉦)は風を、プク(太鼓)は雲を、チャング(鼓の一種)は雨を、ケンガリ(小さい鉦)は雷を表現し、また、金属製の楽器は天を表し、木と皮の楽器は地を表すと言われており、4つの楽器が奏でる楽曲は、天地・宇宙を表現するものであるという。

 続いて、独舞「僧舞」(スンム)が趙恩夏(チョ・ウンハ)さんによって舞われた。この「僧舞」は、韓国の多くの舞の中でも特に見たかった舞であった。漸く念願が叶った。それも生演奏をバックに「僧舞」を視ることができた。趙恩夏さんの舞は、全体的に素晴らしかったが、その中でも太鼓を演奏しながらの舞いが特に印象的で、なかなか見ごたえがあった。

 「祝唱」が韓国の伝統音楽「パンソリ」の大家といわれる安淑善(アン・スックソン)さんの独唱と、韓国国立唱劇団の張宗民(チャン・ジョンミン)さんのチャングの演奏で行われた。「パンソリ」は、語りに近い形態で行われ、私の「ハングル」の知識がないために、どのような内容であるのかを理解することができなかったのが残念である。

 韓国ドラマ「英雄時代」で「パンソリ」の名手として「ソソン」(キム・ジス)が登場していたことを思い出す。

 「夕刻から夜明けが訪れるまで」という「ヘグム」独奏の楽曲がピアノの伴奏(テープ)で「李恩京」(イ・ウンギョ)さんによって演奏された。美しいメロディーがヘグムのモダンな演奏によって奏でられた。

 「25弦伽倻琴」と「テグム」のための「メナリ」という楽曲は、金美卿(キム・ミギョン)さんによる「25弦伽倻琴」の演奏、張侊洙(チャン・グァンス)さんの「大琴」(テグム)、そして成知恩(ソン・ジウン)さんの「杖鼓」(チャンゴ)による素晴らしい演奏が行われた。

 数々の演目の中でも特に注目したのは、韓国古楽器である「伽倻琴」の第一人者として知られ、また現代的な楽曲を自ら作曲して「伽倻琴」を演奏することでも知られている国立国楽管弦楽団の芸術監督で、梨花女子大学の名誉教授である「黄秉冀」(ファン・ビョンギ)さんによる演奏である。今迄聴いた伝統的な「伽倻琴」の演奏とは異なり、モダニズムが随所に表されている独特の演奏で「沈香舞」を聴かせてくれたことだ。非常に素晴らしい演奏で多くの聴衆が魅了された。朴天志(パク・チョンジ)さんの「杖鼓」の伴奏も見事であった。

 そして、韓国国立国楽管弦楽団による演奏で、「伽倻琴」等の韓国国楽の楽器が見事にハーモニーを奏でる素晴らしい演奏であった。

2009年7月8日水曜日

弘明寺観音


坂東札所第十四番「瑞応山弘明寺」(高野山真言宗)

 「弘明寺」は、散歩の途中にいつも御参りしている御寺さんであるが、2009年7月5日(日)に御本尊の「十一面観音菩薩像」(元:国宝、現:重要文化財)を初めて直接拝んできた。

 御本尊の「十一面観音菩薩像」は、昭和三十三年に完成した防災安置堂に納められていて、堂内の入口で拝観料を払うと、御堂の内々陣に入って直接拝むことができる。

 御本尊の「十一面観音菩薩像」は、僧「行基」が一刀三礼のうちに刻み奉った「鉈彫り」の観音さまと伝えられているが、実際には、その彫刻の形式から、「平安末期の作」と言われている。また、近年の調査で、御本尊の「十一面観音菩薩像」は、像高一八〇センチ、関東地方特産のカタ木の「ハルニレ」の木を彫った一木造りであることが判明した。

 「鉈彫り」は、十世紀から十一世紀にかけて関東地方に多く見られる仏像彫刻の一形式であるが、御本尊の「十一面観音菩薩像」は、顔から足の先まで、丸ノミでシマ目のノミの跡をはっきり表わしたもので、「鉈彫り」の仏像の中でも最も優れたものとして知られている。

 近くで御本尊の「十一面観音菩薩像」を拝むと、御優しい御顔をされている。何度か見ていると、微笑んでおられるように見えるときがある。

 いつも御堂には御参りするが、時々は、御堂の内々陣に入ってこの御本尊の「十一面観音菩薩像」を直接拝みたいと思っている。いつも身近におわす素晴らしい観音さまである。

冷泉家 王朝の和歌守展

 「和歌」との出会いは、ある日、「東海道」の「大磯」を歩いていたときに、「鴫立庵」という場所に立ち寄り、歌人「西行」の歌に興味を抱き、彼に関する本を読んだことが、実質的に「和歌」に興味を覚える切っ掛けとなった。

 最近になって、「鎌倉」を散策するようになり、自然の中で「鶯」や「時鳥」等の声を聴くようになると、「和歌」に再び興味を覚えるようになってきた。

 鎌倉の「浄光明寺」を訪れたときに、「冷泉為相」の供養塔に墓参したことがきっかけとなり、歌人である「冷泉為相」及びその祖父であり有名な歌人でもある「藤原定家」の歌、特に「時鳥」を歌ったものに興味が湧いてきた。

 先に鎌倉文学館で見た「十六夜日記」を視たときにそれが書かれている美しい字体を見てから、作者「阿仏尼」に興味を覚えた。

 そして、「阿仏尼」が「冷泉為相」の母であることを知ることにより、「冷泉家」についても興味を覚えてきた。

 「冷泉家」は、「冷泉為相」を祖とする歌宗家である。

 「古今和歌集」、「新古今和歌集」を読み進んで行くうちに、好きな和歌の作者の歌人として「皇太后宮太夫俊成」、即ち「藤原俊成」が存在することに気付いた。彼の和歌を読んでいるとその情景が自然と浮かんでくるようである。

 この「藤原俊成」の息子(次男)が「藤原定家」で、そして「藤原俊成」の曾孫が「冷泉為相」である。

 そんな折、冷泉家時雨亭叢書完結記念・朝日新聞創刊130周年記念の催し物として「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」が「東京都美術館」で開催されることになった。この展示会は、「冷泉家時雨亭文庫」が所蔵する藤原俊成自筆『古来風躰抄』、定家筆『古今和歌集 嘉禄二年本』、定家自筆の日記『明月記』、等、国宝五件、重要文化財約300点をはじめて一堂に公開するものである。

 「冷泉家」は、平安時代末期から三代続けて勅撰撰者(天皇や院の命で編まれる勅撰和歌集の撰者)となった藤原俊成、定家、為家を祖にもち、歴代が宮廷や武家の歌道師範をつとめた家柄である。京都御所にほど近い、現存最古の公家邸宅である同家の蔵には、800年の伝統のなかで集積されてきた勅撰集、私家集(個人の歌集)、歌学書、古記録、等が継承されている。それらの書物は、将来にわたる保存継承のため、昭和56年(1081)に財団法人冷泉家時雨亭文庫に移管され、調査と並行して平成4年(1992)から「冷泉家時雨亭叢書」として写真版複製の刊行がなされてきた。

 また、東京展会期中の平成21年11月14日(土)には、「冷泉家」に伝わる七夕の伝統行事「乞巧奠」が東京文化会館で初公開されることになっている。

 「乞巧奠」は旧暦7月7日に同家の庭で行われ、「蹴鞠」、「雅楽」、「和歌」などの技芸を手向け、技が巧みになるよう祈る「歌会の儀式」である。

 今回、再び見ることができないと思われるこれらの二つの催し物を、観覧する予定である。

「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」
冷泉家「奇跡の文庫」の精髄国宝・重要文化財を一堂に
【 会期 】 2009年10月24日(土)-12月20日(日)
【 会場 】 東京都美術館 企画展示室
【 主催 】 東京都美術館、財団法人冷泉家時雨亭文庫、朝日新聞社

「乞巧奠~七夕の宴~」 ~京都・冷泉家の雅~
曲目・演目:一部:蹴鞠(蹴鞠保存会)
 二部:雅楽演奏(絲竹会)
 三部:和歌披講(冷泉家門人)
 四部:流れの座(和歌当座式)(冷泉家門人)
【解説】冷泉貴実子
場所:東京文化会館
平成21年11月14日(土)
午後14:15開場
午後15:00開演