2009年9月29日火曜日

東慶寺 茶室「寒雲亭」

 私の「御茶」の楽しみの一つに、御茶を戴く場所である「茶室」の構造と、「茶席」のために飾られている「御軸」、「御花」、「花入れ」、「香炉」、「風呂」、「釜」、「水差し」、等を含む茶道具を見るということがある。後者は、茶席を主催する「亭主」の美的感覚にかなり左右されるものであるが、これは、北鎌倉「東慶寺」の茶室「寒雲亭」を最初に訪れたときから興味を覚えたものであり、先月(8月)からお邪魔している「東慶寺」の「月釜」では、御亭主の素晴らしい感覚が「茶室」を訪れる楽しみを倍増させてくれている。 先月の「月釜」は「立礼式」であったがこれもまた夏の「お茶席」として楽しむことができた。

 私は、「東慶寺」の茶室「寒雲亭」の「露地」を歩くのがことのほか好きである。「露地」を歩いたのは、今回の「月釜」で2度目であるが、「苔」のむした「露地」を歩いて「貴人口」より茶室「寒雲亭」に入るときには、時の流れが「千利休」の時代へと戻されて行くような気がするし、自然と心身ともにある種の緊張感が漂ってくる。

 北鎌倉「東慶寺」の茶室「寒雲亭」は、京都の「裏千家」にある茶室と同じ名前であるが、この「東慶寺」の「寒雲亭」が元々京都の「裏千家」にあったもので、明治時代、東京の久松家(元・伊予松山藩15万藩主松平(久松)家)に移築され、その後、鎌倉・材木座の堀越家(堀越宗円)を経て昭和35(1960)年、堀越家から斉藤利助氏により寄進されて「東慶寺」に移築されたものである。

 「寒雲亭」は、「千宗旦」(千利休の孫)の好みで造られた茶室で、わび本位の茶室である「今日庵」(こんにちあん)と「又隠」(ゆういん)の二つの茶室とは対照的に、書院造りが特色である。小間と広間とが併設されており、広間は、八畳で一間の本床と一畳の控えと付書院がある。

 茶室「寒雲亭」の天井は、貴人をお迎えするための「真」、お相伴の人には「行」、自ら茶を点てる場所は「草」という具合に、天井を「真行草」の三段「所謂、真行草(しんぎょうそう)の天井」、に張り分けてあり、千宗旦の茶人としての独創性と心遣いが示されている。その草にあたる船底型の天井の下には、「千宗旦」筆の「寒雲」の扁額が飾られており、「東福門院」よりの拝領品を象った「櫛形の欄間」が施されている。

 なお、京都・裏千家に現存する「寒雲亭」の有名な「八仙人の手違いの襖」(狩野探幽)(1602-74)が、飲中八仙(いんちゅうはっせん)(唐の杜甫が作った詩に登場する酒豪、李白・賀知章など8人)の酒を飲む様子を描いた際、一仙人の左右の手を描き間違えたため「手違いの襖」といわれている著名な襖)は、「東慶寺」の「寒雲亭」から「裏千家」の「寒雲亭」に戻されたものである。(平成6(1994)年改修)

2009年9月9日水曜日

KEK一般公開

2009年9月6日(日)
 筑波にある「KEK(高エネルギー加速器研究機構)」の一般公開に参加した。

 今年の4月19日(日)に「科学技術週間」の一環として開催された「つくばの研究機関」の特別公開のときは、2008年のノーベル物理学賞を受賞した益川・小林理論を実験的に検証した実験施設の一つである「Belle」測定装置を見学することが目的であったが、今回は、「CERN(Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire):欧州原子核研究機構」で稼動し始めた「LHC (Large Hadron Collider):大型ハドロン衝突型加速器」に続く次世代の加速器としてその建設が予定されている「ILC (International Linear Collider):国際リニアコライダー」の研究・開発に特に注目して、「KEK」にある“ILC”関連の研究・実験棟を訪れることにした。

 最初に「超伝導リニアック試験施設棟」を訪れた。ここは、“ILC”を実現するために最も重要となる「加速器」の構成部分の一部である「超伝導リニアック」を「製造・実験・研究」している研究棟である。

 どちらかというと「物理」そのものを研究する場所ではなく、「加速器」の「装置」の「製造場所」といったような雰囲気のところ。以前の私であれば殆ど興味を覚えなかった場所である。しかし、電子、陽電子のバンチが加速されて通過する空洞を形成する「加速管」に「超伝導材料」が用いられていることに大いに興味を覚える。そして、「加速管」で電子、陽電子を加速させるためのメカニズムが私の好きな分野である「電磁気学」、「超伝導物質」、そして「加速器工学」のそれぞれに大いに係わっていることが判ってきて、自然に興味をそそられる。

 担当者から「超伝導加速空胴」について説明をしてもらっている間に、「加速器」を構成する「装置」の構成・構造は、もとより、「装置」それぞれを製造するときに発生する問題点を解決するために必要な技術にも興味を覚えた。

 例えば、
(1)ナノスケールのビーム(電子・陽電子)を加速するための「空洞」を鏡面研磨するときに発生する凹凸や傷を検査・検出する光学的検査方法及び装置;
(2)「空洞」の鏡面研磨方法(化学液により研磨);
(3)RF(高周波)の安定したパルス(上面がより平滑化されたパルス)を発生しかつ供給するための技術;
(4)長い距離に亘り接続されるパイプ間の機密性(ここでは「超伝導」を実現するために液体窒素、等を含めた「装置」を一定の温度・圧力に保持する)を実現するために必要な異種金属間の圧着式(?)接続方法、等。

 帰宅してから「電子や陽電子のバンチが超伝導空胴の中をRF(高周波)電界で加速されるメカニズム」について考える。インターネットをサーフィンしても適当な資料がなかなか見付からなかったが、ようやく京都大学大学院生の修士論文(内容は、上記(1)に関連したもの)に一部分ではあるが、望ましい記載があった。しかし、実際には、「電子や陽電子のバンチがほぼ光速にまで加速されて所望のエネルギーを得る方法」について、いまだ理解できていない。何かこれについて説明されている資料はないだろうか。

 本来ならば、この実験棟の後に「先端加速器試験棟」を訪れるべきであったが、次に、「Belle」の実験棟を訪れてしまった。これは、ちょっと失敗した。
 なぜならば、後で「先端加速器試験棟」を訪れたときには、疲れてしまって、説明を聞く気分ではなかったから、説明なしで単独で実験棟を観て回ってしまったからである。

 「超伝導リニアック試験施設棟」の次に訪れたのは、「Belle」が設置されている「筑波実験棟」である。前回訪れたときに一度観ているので、あまり感激はしなかったが、「Belle」がメインテナンスのために開いていたので、その内部の様子を今回初めて見ることができた。しかし、肝心の「検出器・測定器」部分は内部に設置されたままなので、見ることができない。

 「Belle」の実験棟で説明をして頂いた人は、関西語で話すひとだったので、京都大学のOBであろうと思われ、京都大学の基礎物理学研究所の所長・教授を兼任されていたときの益川先生の講義を受けたことがあるとのことだが、マスコミの前での態度とは全く異なる素晴らしい先生ですとのこと。但し、黒板の字は、大変読みずらかったとのこと。

 そして、「KEKB」の装置を別個に展示している「Belle」の実験棟に隣接する資料室を見学する。
 続いて「日光実験棟」を訪れる。ここでは、「加速器」を構成しているリングの一部分と、そのリングに設置されている様々な電磁石や、「ルミノシティ」を向上させるための装置である「超伝導クラブ空胴」を見学する。

 「超伝導」の技術がここにも生かされていることに興味を覚える。また、「ルミノシティ」を飛躍的に向上させることができた「クラブ空胴」の目的とその機構にも興味が湧いた。
 上記以外の実験棟も見学したが、疲れたのであまりよく観察しなかった。これらの実験棟の見学は、次回の楽しみとしたい。

 そして、最後に、小林誠先生の講演を聴く。先生の講演は、これで3度目になるが、その内容はあまり代わり映えしなかった。もう少し、益川先生のようにユーモアを交えて話されるとよいのだが、といつも思う。

 疲れたが、楽しい一日を過ごすことができた。やはり「物理」は楽しい。特に、加速器を利用した物理学には、夢がありロマンがある。

参考資料(1):
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の齋藤健治助教授をリーダーとする加速器研究開発グループは、ニオブ※1)の超伝導材料で作られた超伝導加速空洞※2)においてメートルあたり5,230万ボルト(V/m)の加速電界を達成することに成功した。これは1.5Vの乾電池を約3,500万個直列にした時の電圧に匹敵するものである。
高電界を達成する超伝導空洞の開発は、加速器の性能向上や省エネルギー・省スペース化を図るうえで大変重要である。次世代の高エネルギー物理学研究を行うために世界中の研究者が協力して進めている国際リニアコライダー(ILC)の概念設計作業においても最重要課題の一つとなっている。従来、ドイツのDESY研究所などが中心になって設計した超伝導空洞(TESLA形状)では、メートルあたり4,100万ボルトの加速電界が限界であった。今回、研究グループは、新しい高電界限界理論に基づき空洞形状を設計・製作することで、超伝導空洞における世界最高記録を達成した。また、超伝導加速空洞が放電を起こさずに高電界を達成するためには、欠陥の無い滑らかで超清浄な空洞内表面を造る技術が不可欠であり、この面でもKEKはBファクトリー加速器の前身であるトリスタン加速器で開発した電解研磨技術を基礎とする優れた表面処理技術を活かし、高電界達成に大きく寄与した。今回、高電界を達成した単一セル型超伝導空洞(図1)は、ハッサン・パダムジー教授が率いる米国コーネル大学のチームが設計・製作した空洞(リエントラント形状:RE)にKEKが開発した表面処理技術を適用したものと、KEKと米国ジェファーソン研究所、ドイツDESY研究所が共同で形状設計し、KEKの機械工学センターが製作した空洞(低損失形状:LL)の二種類である。絶対温度2度の環境において、RE形状はメートルあたり5,230万ボルト(Qo※3)=0.97×1010)、LL形状はメートルあたり4,730万ボルト(Qo=1.13×1010)の加速電界を達成した(図2)。この値はこれまでの記録を大幅に更新するものであり、超伝導加速器の専門家の間では現在の技術における理論的限界値として捉えられている。ILCの高電界超伝導空洞試験開発のアジアグループリーダーでもある齋藤助教授は、「この成功は、ILC高電界空洞の概念設計方針上、決定的に重要である。従来のTESLA形状では過去10年間、メートルあたり4,100万ボルトに電界が制限されて来た(図3)。その原因について専門家の間では、製作技術の問題と理論的限界説の2つに議論が分かれていた。我々はこれまでのデータを解析し、理論的限界説を2001年に提唱し、その制限の中でより高電界を得るためには最大表面磁場と加速電界の比が小さい新しい空洞形状しかないと指摘していた。今回の結果は、この指摘を裏付けるものである。」と述べた。KEKではこの成果をもとに、LL形状の9セル型超伝導加速空洞の開発を進めており、世界の加速器研究者から注目が集まっている。また、超伝導加速空洞設計の基本思想の変更が有効であったことを実証した今回の成果は、ILCが目指す加速電界の達成に十分な根拠を与えたばかりでなく、従来と比較し小型で省エネルギーの加速器が実現可能となることにより、幅広い分野での応用の道を拓くものと期待が寄せられている。
※1)
ニオブ:超伝導臨界温度絶対温度9.25度の単一金属。加工性に優れ空洞製作に適する。
※2)
超伝導加速空洞:加速空洞とは高周波をその中に供給し、それが作る電場で荷電粒子を加速する装置(加速管ともいう)である。超伝導加速空洞は、加速管を超伝導材料で製作したものである。超伝導特性から空洞内の高周波損失を著しく低減でき、省エネルギー性が向上する。
※3)
Qo:空洞内での電力損失の逆数に比例し、この値が大きいほど空洞内表面での電力損失が小さい。省エネルギー性の目安。